何だか、綺麗な話が読みたくて手に取った、川上未映子先生の『すべて真夜中の恋人たち』
冒頭の部分で掴まれました。
真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。
それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしは真夜中を歩きながら思い出している。
はい、読みまーす。
”真夜中には世界が半分になるんですよ” ・・・?
何その綺麗な表現、詳しく。
で、まあ、思ってた通り繊細で綺麗な物語でした。
ちなみにこういう雰囲気を味わいたい人にオススメ↓
繊細 ★★★★★
人間らしさ ★★★★
微恋愛 ★★★★
一応、長編恋愛小説なんだけど、私にはあんまり恋愛恋愛してるようには感じなかった。
これが純文学か・・・。
ざっくりあらすじ
地味で孤独な‟冬子”は‟三束さん”という男性に出会い、恋を知る。さらに自分と正反対の‟聖”に無意識に憧れを抱いている。何事にも受け身だった冬子が2人の存在によって徐々に人間らしくなっていく物語。
登場人物
冬子・・・フリーで校正の仕事をしている。地味で孤独。ぼやっとしていて流れのままに生きてる感じ。34歳。
聖・・・・我が強く、自分が一番正しいと思っている節がある。性格が悪いとかではないが、敵が多い。真逆の冬子のことは気に入っている。冬子と同い年。
三束・・・みつつか。58歳の物理教師。穏やか。
感想
大きな事件とかが起こるわけじゃないがずっと不安定でゆらゆらしてる。何だか足元が覚束ない感じがした物語だった。
主人公の冬子は地味で孤独。会社の人達ともうまく馴染めていないし、三束さんと出会ってからも会話とか接し方とかが下手で読んでて変なドキドキがある。
「え、え、大丈夫?大丈夫?」みたいな。
とくに冬子がお酒を飲む時は不安になる。
いや、どのタイミングで飲んどんねん!ってなる。
でも冬子にはこのお酒が1歩踏み出すためには必要だったんだろうな。
聖ははっきりした性格してるし、言うこともきついけど、まあ間違ったことは言ってない。のかな?
でも言わなくていいことも言っちゃうし、自分の考えが一番正しいと思ってて疑わないから強い口調で捻じ伏せてきたんだろうな、と感じる。だから、敵が多い。
三束さんはすごく穏やかで大人。てか、58歳だから実際大人なんだけど。冬子に対して大人の包容力を発揮してくれる。冬子が変わるきっかけでもあるし。
でもこの人も秘密があって、それを知ると誰よりも不器用な人だったなって思う。
三束さんとの会話と聖との会話は冬子にとっては夢と現実のような気がして面白い。
三束さんとの会話が夢で聖との会話が現実。
それくらい会話の雰囲気というか、内容というか、質?が違う。
冬子は夢の中を生きたいけど、聖が現実を突き付けてくる。みたいな。
ある意味で人間らしくない(というか、34歳女性らしくない)冬子の感情や行動の変化が繊細に描かれた作品だった。
心に残ったシーン
・冬子が久しぶりに会った高校時代の友人から自分の近況を明け透けなく話された時に
「入江くん(冬子)は私の人生の登場人物じゃないから話せた」
って言われるシーンがある。
これは少し衝撃だった。この人ほんとに友人か?(笑)
「冬子にはどう思われてもどうでもいいから、本来秘密にするようなことも話せちゃう」ってことだよね?
確かにそうかもしれないけど、言うかね?
もう冬子との縁切れてもいいや。って思ってないと言わなくない?
この言葉を聞いて、冬子は「自分は誰かの人生の登場人物なんだろうか・・・」的なことを考えちゃう。
こういう疑問?テーマ?って私は大人になってからのほうがよく考えちゃってた。
人によったら、子供の時でも考える機会があった人もいると思うけど。
できたら、誰かの人生の登場人物(主要人物)になっていたいってみんな、ちょっとは思ってるんじゃないかなー。
ブログ書いたり、SNSやったりすることもそれに関連してる気がする。
・冬子と三束さんが会話している中で三束さんが
「光はいつか吸収されてなくなる」
と教えてくれる。
このセリフは冬子の物語の結末を暗示していたものなのかな?って思う。くらい大事な言葉だと思う。
最後に
先に‟私にはあんまり恋愛恋愛してるようには感じなかった。”って書いたけど、冬子にとっては間違いなく恋の物語だった。
タイトルの『すべては真夜中の恋人たち』は冬子にとっての特別な言葉なんだろうなー。